
薮原から鳥居峠を越えて奈良井宿へ
前回に引き続き、木曽路の中山道でも定番の峠越トレイルを歩く。ここ数年は、春秋にそれぞれ 2 回ずつ馬籠峠と鳥居峠を一人で歩いている。それにお客さんと一緒のツアーを加えると、この二つの峠だけで年間 10 回以上歩いている。それだけ歩いてもまったく飽きが来ないのは、季節によって微妙に表情が変わる峠道の魅力ゆえだろう。
中山道を歩く日本人のほぼ90%は、江戸から京都へ、つまり東から西へと歩いている。しかし欧米人はというと、ほとんど100%が逆方向に歩く。でも僕がツアーを企画するとき、歩く方向にはあまりこだわらない。歩いた後の満足感を優先して、宿場ごとに歩く方向を決めるのが良いと思う。鳥居峠を歩くときは、薮原から奈良井へ歩くのがおすすめ。
藪原宿を出て登山道に入ると、すぐに出迎えてくれるのがこの石畳。江戸時代のオリジナルではないが、周りの風景に溶け込んでいて違和感はなく、なかなか良くできた石畳だと思う。幅や石組み、排水溝の形状など、ほぼ江戸時代のものと同様とみてよいだろう。欲を言えば、時々大きめの石を使って全体の印象が不揃いな方が本物らしいかな。
登山口に入ると、こんな山道がしばらく続く。鳥や春ゼミの声が聞こえてウォーキングには最適なシーズンだ。ここはすでに標高が 1000 メートルを超えており、真夏でも空気はさわやかだ。峠道を何度も歩いていると気付くことがある。それぞれの峠で、南側と北側では緑の色合いや濃さが全く異なること。馬籠峠しかり、和田峠しかり、そして鳥居峠も例外ではない。生えている植物にそれほど違いはないと思うのだが、南側、つまり藪原側の森林の方が遥かに美しいのだ。地形なのか、気候なのか、原因は分からない。
御嶽神社の遙拝所を過ぎると鬱蒼とした薄暗い森となる。この辺りには驚くほど大きな栃の木が群生しており、自然観察の場としても重要。藪原名物の「お六櫛(おろくぐし)」の材料となるミネバリの木も見ることができる。
鳥居峠の中山道最高地点。長い間、標高1197メートルと書かれた標識が木に結びつけられているだけの状態だったが、2年前に新しい石柱が設置された。ここはそれぞれ太平洋と日本海に向かって流れる、木曽川と奈良井川の分水嶺でもあり、現在では木曽郡と塩尻市との境界にもなっている。
奈良井宿に到着。鎮神社(しずめじんじゃ)の境内から上町(かんまち)を眺める。
中町。奈良井宿の中心部で、道幅がかなり広い。本陣、脇本陣、旅籠、造り酒屋などが軒を連ねており、裏手には二つの寺院がある。
宿場町から少し外れたところ、奈良井駅の近くにある八幡神社前の杉並木。江戸時代の中山道は、実は現在の奈良井駅の前を通っている車道より少し山側の高台の上を通っていた。この杉並木が旧中山道だ。